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ねぎまの殿様 千住ねぎ


 殿様が三太夫をつれて、北風の中、上野広小路あたりに出てきた。ここはバラック建ての煮売り家(今の居酒屋)が軒を連ねている。冬の寒い最中で、どの店も、はま鍋、ねぎま、深川鍋などのいい匂いを発していた。殿様は下々の料理屋だからと止める三太夫の言も聞かず、匂いにつられ店に入ってしまう。イス代わりの醤油樽に腰掛けるが、当然このような店に来た事もないので何を注文していいかわからない。小僧に聞いても早口で解らない、しかたなく隣の客が食べているものを聞くが「にゃー」としか聞こえない。仕方なくそれを注文すると、ねぎま鍋が出てきた。鍋の中のマグロは血合いや骨が混ざったもの、ネギも青いところがある。殿様にはその色合いが三色の三毛猫のように見えた。「それで"にゃー"か」と合点する殿様。ネギを食べると熱々の芯の部分がノドへ飛び込む。びっくりしながらも、酒も飲み大満足して屋敷にもどった。三太夫から「あのような食べ物を食べた事がわかると問題になる」と、今日の事は秘密にしてくれと頼まれた殿様。
 殿様の昼の料理は一品だけ好きなものを所望することができた。そこで数日経ったある日の昼、あの味が忘れられずにいた殿様は「にゃー」を所望される。そばにいた三太夫がねぎまの事だと料理番に伝えるが、そこは城の料理番、マグロは賽の目に切って蒸かして脂ぬきし、ネギは茹でてしまった。出て来たのは灰色一色になった鍋。当然うまいわけはなく、「これは"にゃー"ではない」とご立腹あわてて店で食べたねぎまを料理番に教えて作り直させる。
ご機嫌になった殿様は「座っていては面白くない、醤油樽を持て」というくだりで終わる。
江戸の食文化にネギは欠かせないものらしい。殿様も上品な料理ばかりでは退屈してしまう。目黒のサンマと同種の噺。

 

※千住ネギ(JA東京中央会)