~10年先の農業と地域のために~ 野菜と向き合う百年企業

 

 

 

さいたまヨーロッパ野菜研究会を訪ねて第4回は、日本でヨーロッパ野菜を栽培できるように品種改良されたトキタ種苗株式会社さんです。トキタさんは、さいたま市に本社を置く今年創業百年を迎える種苗メーカーです。今回、開発普及室の佐波光咲 d-プロジェクトリーダーにお話を伺うことが出来ました。

 


 

さいたまヨーロッパ野菜研究会を訪ねて その4

グストイタリアプロジェクト発進

 

Qグストイタリアプロジェクトを立ち上げられたのはいつでしょうか?

 イタリアのボローニャにある支社でトマトベリーをはじめとするトキタ野菜の現地販売を進めていました。現地イタリア人スタッフの「日本野菜を売るだけでなく、その逆があってもいいじゃない?」という一言がはじまりでした。イタリア野菜は種類も豊富だし、なんといっても日本人はイタリア好きですし。これは日本でも売れるだろうと。プロジェクト名の「グスト」は、イタリア語で「美味しい」「好き」という意味を持ちます。野菜のイメージをそのままプロジェクト名にして、「イタリア野菜を日本の食卓に」をモットーに、2010年からグストイタリアプロジェクトを進めてまいりました。現在では35種類を展開しています。

 

Qグストイタリアシリーズの種は、ネット販売もされていますね。

当初はイタリア野菜に馴染みもなかったので、種を置いてもらえない店舗もありました、地方では新しいものに拒否反応もあったようです。またご存じのとおり業界全体の人口減少と高齢化が進み、種を販売している小売店も減ってきています。そのため生産者が遠方まで買いに行かなければいけないケースも多くなっています。そのためにイタリア野菜に興味を持ってもらった生産者さんが、つくってみたいと思ったときにすぐに手に入れられるようにネット販売もしています。

 

Qイタリア以外にも海外拠点がありますね

 それまでにも、中国、インドといったところで、支社を立ち上げています。現在は米国、チリにも拠点があります。基本は種を収穫するためのものですが、現地へ日本野菜の種も販売します。インドのニンジンは約3割がトキタの種です。カリフラワーの改良品種カリフローレは、南アフリカでつくったものをイギリス、オーストラリアのスーパーで販売しています。日本のネギも海外で好評ですよ。

 

全国に広がるイタリア野菜

 

 

Qヨロ研との出会いは

新潟県燕市と三条市の生産者グループ「燕三条イタリア野菜研究会」でトキタのイタリア野菜を栽培していることを新聞で知った、ノースコーポレーションの北さんから、「さいたま市でも栽培できないか?」と問い合わせがあったのがきっかけです。

 当初、生産者もはじめて栽培する品種でしたので、従来品種のなかで似た野菜の栽培方法を参考にし、先代(親)にアドバイスをもらいながら栽培をはじめたと聞いています。弊社も栽培指導をしましたが、各地域の異なる環境の中で、どう調整していけばいいかまでは情報がありませんでしたので、技術の面でも挑戦だったと思います。

 

Q今年で4年目を迎えて法人化もしましたね。

 品質保持という目的もありますが事業主同士の集まりというのは、仲良しグループになってしまいがちです。法人にする事で各人が明確な役割と責任を持ち、片寄りがちであった事務仕事も均等に配分されたと思います。

 

Q現在では全国各地で栽培がはじまっていると聞いていますが

 グループ単位だけでも20箇所、個人の生産者さんを入れるともっと多くなりますね。

 

Q産地リレーもトキタさんが主導されていますが、どのような形で?

 一つは産地同士の情報交換です。生産者は、他の地域情報はわかりませんので弊社のような会社が繋いでいくことで、お互いの情報を知り得ます。さいたまヨーロッパ野菜研究会でいえば青森との連携がはじまっています。お互いに相手の畑に出向き、「何が出来るか?」を話しあったりします。一度交流ができるとその後も、SNSなどで、生産者同士が細かいニュアンスで教えあったりしているようです。弊社もフォローしていますが、気軽に生産者同士で話をした方がいい場合も多くありますから。

 また、さいたま市では暑い夏の時期は生産が減りますので、流通上で欠品がでないようにその時期は青森で栽培された野菜が市場に供給されるという具合に、全体を安定させることを期待しています。

 

品種改良とは先祖を探す旅、

 

Q品種改良についておきかせください。

 イタリア野菜で言えば、イタリアの苗を日本に持ち込み弊社のブリーダーが、栽培する環境にあわせて品種改良し、それを海外へ持ち出して種をつくる(種を増やす)というイメージです。

 

Qなぜ海外での工程が必要なのでしょうか?

 国内の種をつくる人達の高齢化、人口減少という問題もありますが、日本は土地が狭いので同一の環境を広範囲に確保するのが難しいのです。標高差などの問題で、200m先では環境が変わってしまうような事があるのです。それで均一な環境を広範囲に確保できる海外に求める事になります。

 

Q環境にあった品種をつくるというのは、弱い部分を持つ品種にその部分が強い品種を掛け合わせるということなのですか?

 イタリア野菜の種を日本に持ってきて、そのまま栽培してもなかなか環境に合わずにうまくいかないことが多くあります。弊社では日本の環境で栽培を繰り返し、適応能力の高い品種を採種します。もちろん、日本の暑い夏や寒い冬の環境に耐えられるように掛け合わせも行います。

 例えば、カリフローレには60日タイプと80日タイプの2種類があります。茎が伸びるタイプのカリフラワーに暑さに強いタイプのカリフラワーを掛け合わせたものと、寒さに強いタイプのカリフラワーを掛け合わせたものと言うとわかりやすいでしょうか。親株の特徴を基に新しい品種を作っていきますので、その親株のことはもちろん、その親、さらにその親のこともわかっていないと、より良い品種は作れないと言えます。

 そうして掛け合わせてできたものの中から、より元気に生き残った株を選抜します。選抜した株から種子を採るのですが、採種は非常に難しい場合が多いです。日本は湿気が多いので、カビや虫の害が多い時期もありますし、安定しない天候とも戦わなくてはなりません。大規模 採種を海外に頼る理由はこの辺りにもあります。

 採種技術としては、例えばアブラナ科では人為的に蕾を開いて自身のおしべとめしべで受粉させます。この時に他の花粉が入らない様に袋をかぶせたりするのですが、多くの株数を扱うので気の遠くなるような作業です。

 

Q花粉レベルで他の影響を受けないようにとは、ずいぶん困難な作業だとおもうのですが?

 熟練の交配技術が必要です。いまでもピンセットで実施していますが、一人前に交配できるようになるには3年はかかりますね。

 

時を重ねた大切なもの

 

 私たちが種をつくり、生産者が野菜を育て、消費者の口に入るまでには、最短でも10年程度はかかります。自然を相手にしている事ですので、こちらの都合はとおりません。時間はかけなければいけないのです。

 よく仕事は3年ひと区切りといいますが、私たちの業界ではもっと長いスパンで、モノを見て行かなければいけません。係わった仕事が目に見えるまで10年はかかるのですから。

 イタリア野菜については、年に数十件も、流通業など多くの方々から、問い合わせを頂きます。イタリア野菜はキャチーなので。新しいサービスを作って行く上では便利なもののようです。しかしイタリア野菜は生産者、レストラン、行政、私たち種苗メーカーが時間かけて築いてきたものです。あたらしい野菜が人の口に入るまでに、どれだけの事が必要か、個人の利益だけではない全体の利益、地域の人達の事も考えたもので無ければいけません。そのような想いを共有できない方とは一緒に仕事はできないと考えています。

 弊社は、今年創業100年となりますが、これからもこの感覚は持ち続けなければいけないと思っています。

 

 お話を伺った場所は、フローリングも美しい真新しいロビーでした。1年前に竣工されたオフィスは仕切りのない、フリーアドレス制を採用されたそうです。以前より緊張感が増したようですが、社内の交流は盛んになったそうです。一見相反するようですが、長いスパンで物事を考えるためには、積極的に刺激を受けようという姿勢が必要なのかもしれません。

 佐波さん、本日はありがとうございました。

 インタビューを行った日は、6月にしては日差しの強い暑い日でしたが、終了後は良い風が吹いていたような気がしました。いままで、さいたまヨーロッパ野菜の取材をさせて頂いた日の記憶が清々しい印象なのは、気候のせいではないと思います。           (2017.6 彩邦)

トキタ種苗株式会社 http://www.tokitaseed.co.jp/index.php

グストイタリア         http://www.gustoitalia.jp/about/index.html