~農業の活性こそが、地域文化を守ることにつながる~


 

 

「さいたまヨーロッパ野菜研究会をたずねて」第 3 回は、研究会が独自の販売方法を模索している時、事務処理の課題にぶつかりました。その時に管理システムの構築という面で支援を行った、芝浦工業大学をたずねました。今回は、支援プロジェクトを指導された、山崎敦子教授からお話を伺うことができました。


 

さいたまヨーロッパ野菜研究会を訪ねて その3

お互いが引き合ったような、研究会との出会い

 

Q さいたまヨーロッパ野菜研究会への支援活動を耳にしたとき、工業大学と農業という結びつきは以外に思えたのですが?


 文部科学省が推進する、地(知)の拠点整備事業「大学COC(Center of Community)活動」の中でプロジェクトのひとつとして取り組みました。
 「システム工学特別演習」という授業があり、システム理工学部専攻の大学院生にとっては必修となっています。その中で企業や地域と連携した課題解決をテーマに選んだ学生が、産学地域連携 PBL(Project Based Learning)という授業の形で取り組みました。これは地域の課題解決を通して、実践的学習を行うのが目的です。そんな中でヨーロッパ野菜研究会の活動を知り、さいたま市産業創造財団を通して協力体制ができました。

 

Q 研究会も出荷関係の事務処理問題をどうしようかと考えていた時ですね。
  地(知)の拠点整備事業について教えていただけますか?

 

 芝浦工業大学は「地(知)の拠点整備事業」に対し、「まちづくり」「ものづくり」を通した人材育成推進というアプローチで採択されました。我々は、このアプローチを「地域とともに生き、地域とともに学生を育む実践教育の場」と捉えています。このプロジェクトは農業への支援だけでなく、キャンパスのある芝浦、豊洲、大宮の各地域において「まちづくり」「ものづくり」をテーマに周辺地域と連携し、20のプロジェクトに取り組んでいます。それぞれのプロジェクトにおいて、地域が抱える課題を抽出・分析し、その解決を図るプロセスを PBL(Project Based Learning)として教育課程に組み込み、「まちづくり」においてはシンポジウムや成果報告会、「ものづくり」においては製品化・事業化・技術イノベーションという形で地域に還元することを目指しています。

 

システム化を通して、お互いを理解する

 

Q 農業現場からの課題ヒアリングは、スムーズにいきましたか? 

 

 生産者は、二十代、三十代という若い世代がほとんどでしたが、当初システム導入に対して違和感というか、反発もありました。「スマホには馴染みがあるが、パソコンとなると・・・・」という反応で、正直びっくりしました。しかしこれが生産現場の現実だと思います。しかし会話を重ね、システムを実際に使ってもらうと、理解してもらえました。

  学生たちも、取り組み当初と完成時では生産者へのイメージがかなり変化していきましたね。仕事を通してお互いに理解を深めていく。これが実践学習の素晴らしいところです。

 

Q 学生たちのシステム化のアイディアについて、先生はどのように思われましたか?

  

 学生のアイディアは経験がない分、斬新なものが多いですね、本当に実現可能か?と思うような突飛なものでも、我々がサポートすることで、プロトタイプになっていきます。そこから徐々に現実的なものへ仕上げていきます。それらが「受発注システム」、「スケジューリングシステム」となっていきました。現在は、さいたまヨーロッパ野菜研究会のほか、石川県珠洲市のベジュール合同会社、奄美大島の農家さん、市内の規模拡大を計画中のトマト農家の3件に対して、それぞれの環境に合わせカスタマイズしながらシステムの提供が出来るよう準備をしています。

 

生産者の経験と勘があって、完成するシステム

 

Q スケジューリングシステムについて教えてください

 

 当初は、ヨーロッパ野菜の産地をつなげて、それぞれ場所の栽培状況が把握できるシステムを、物流サイドからも見る事が出来るようにと考えていましたが、仕入れ側がシステムをコントロールすることになると、価格交渉の道具にされてしまうことを危惧し、現在は生産者グループの情報共有システムとしています。
 いままでは、同じグループの中でも、だれが何を作っているのか?それはどのくらいの生育状態なのかも、リアルタイムにはわからなかったのです。また栽培記録を残す事は、次年度以降に役立ちます。栽培する中で「おやっ?」と思った時、昨年はどうだったか確認する事ができます。「昨年のこの時期」、「こうゆう気候で」、「自分達がどうしたか?」「それによって作物はどうなったか?」という記録があれば、「どうしたらいいか?」「どうしてみようか?」がわかってきます。それらのデータが蓄積されてくれば栽培が安定する。育てるものが新種であればなおのこと、栽培方法を読むことができる、気候をはじめとする環境に対して、どのような方法を取れれば適切に栽培できるのか?データを取り、記録をすることで、対処法がわかってきます。もちろん環境は毎年変化しますから、全てデータ化で解決する問題ではありません。しかし対処する方向がわかってくるのです。さらに IoT を活用した温度変化、照度などのデータをクラウドに上げて、気候と生育状況を記録すればより高度化できます。
 このシステムはサジェスティングのシステムではあると思いますが、しかしそれですべてが解決できるわけではないし、農業は気温、照度、地形、土の組成、風などファクターも多く複雑です。ですから、生産者の持つ経験や勘といった要素も大切になってくる。採取したデータを可視化し直感的に捉えられる形にする事で生産者の判断精度を上げる。そういうシステムで良いと思っています。

 

次の世代へ継承するもの

 

Q 受発注システムについてはいかがでした?

 

 システム導入以前は、1 年間で何がどれくらい出荷したか正確な数字を把握できていなかったようです。どの野菜が稼ぎ頭で、どれがロングテールなのか、正確に見えてくることによって、将来の設計ができるようになります。これもデータの可視化ということだと思います。
さいたまヨーロッパ野菜研究会の目標である「農家から農業経営者となる」ためには、自分たちのやっている事がはっきりわからないといけません。記録を残す、データとして抑える事が大変重要になってきます。栽培から出荷まで、システム化が進む事で、次年度の計画が立てられる。どれくらいのコストをかければ、どれくらい儲かってという計算ができれば、自分の子供達へもある程度安心して譲ることが出来る。次の世代へと継続していけるのです。

 

Q 後を継ぐ人がいないのは、大きな問題ですね

 

 農業経営が成立すれば、人を雇うこうともできます。その際もシステムがあれば、別の場所で従業員が栽培をしていても、生育度合いなどのチェックができるし、ノウハウの共有も行いやすい。品質にムラがでない。経営が拡大していけば、地域に人が増えていくと思うのです。すくなくとも流出は防げるのではないでしょうか。
 以前、講演で母校を訪れた際、街を見てずいぶん衰退していると感じました。自分はその場所から出てしまった人間だけど、故郷のためになにかできないか?「土地に根ざした産業に対してなにかできることはないか?」という思いが強くなりました。農業支援のプロジェクトを担当したのもその気持ちがあったからです。それは現在もモチベーションとなっています。

 

システムに込めた想い、生産者を守ることは、地域の文化を守るということ

 

 日本各地には、地方特有の「祭り」がありますね。祭りはもともと五穀豊穣の願いや大地への感謝をこめて行うものです。そしてそれらを支えているのは、当然第一次産業に従事する人達です。その人達の生活を守ることは、地域の文化、日本の文化を守ることにも繋がっていく。故郷にもどるたびに、朝市や祭りがだんだんと寂れていくのは、切ないものです。すばらしい文化であるのに・・。当事者さえも、その魅力に気づいていない事もある。このまま失ってしまってはもったいない。もっとアピールをしていかなければ、そのためには地元の人の力が必要。農業経営はそういうことにつながっていくひとつの要素だと思います。
 物流向けにシステムを構築するのは、キャッチーで、儲かるかもしれない。しかし、いかにしたら安く生産者から仕入れられるかという事が目的となってしまう。物流側は儲かるかもしれない、でもそれで生産者が疲弊してしまっては元もこもない。そういうシステムだけにはしたくありませんでした。
 今後、他の地域からでも支援要請があれば、積極的に検討したいと思っています。しかし品種、気候、地形、地質、など様々な要素が影響してくるので、対象に合わせてカスタマイズの必要はありますね。

 

インタビューを終えて           

 山崎先生のご出身は石川県だそうですが、この支援活動の動機を「故郷を出てしまった者のノスタルジーかもしれない」とつぶやかれていました。だれもが持っている感情ですが、行動に移すには膨大な熱意が必要だと思います。これからもご活躍を期待しております。
緑に包まれた芝浦工大の大宮キャンパスには、気持ちのいい風が吹いていました。

 

芝浦工業大学 大学 COC 事業   http://plus.shibaura-it.ac.jp/coc/

 

山崎敦子 教授プロフィール

http://www.shibaura-it.ac.jp/about/gender-equality/researcher/field/yamazaki_atsuko.html