さいたまヨーロッパ野菜研究会を訪ねて。


 

さいたまヨーロッパ野菜研究会を訪ねて

さいたまヨーロッパ野菜研究会は、地元レストランシェフ達の「もっと新鮮なヨーロッパ野菜をつかって料理を提供したい!」という思いから、若手生産者さんを中心に、種苗メーカー、卸売業者、行政が手を組み、動き出したプロジェクトです。今回は、事務局の福田さんにお話を伺う事ができました。

福田さんは、(公財)さいたま市産業創造財団に所属されている経営コンサルタントさんです。農業経営以外にも、広報の面から、地域発展のためヨーロッパ野菜研究会を支援されています。

Q:本日はよろしくお願いします。早速ですが研究会の発足の経緯を教えてください。

埼玉県内のレストランシェフ達が集まる「シェフクラブSAITAMA」の中で、「ヨーロッパ野菜の輸入品は、価格も高く、どうしても鮮度が落ちる、地元でヨーロッパ野菜を作ってくれる農家があれば、新鮮素材で料理を提供できるのに」という要望が出ました。そこで、ヨーロッパ野菜を日本向けに品種改良を行っていたトキタ種苗に、コンタクトを取り、2013 年1 月に、生産者向けに勉強会を開き、作ってくれる方を探しましたが、栽培経験のない品種の事、なかなか協力を得られませんでした。そこで市の農政課さんを通じ、直接生産者さんに交渉しましたところ、全国の若手農業者で組織されている4H クラブ※の中の岩槻4H クラブ(さいたま市)が交渉に応じて頂きました。

ここにヨーロッパ野菜研究会の原型が出来あがりました。

※4Hクラブ(農業青年クラブ): 20~30 代前半の若い農業者が中心となって組織され、農業経営をしていくうえでの身近な課題の解決方法を検討し、より良い技術を検討するためのプロジェクト活動を中心に、消費者や他クラブとの交流、地域ボランティア活動を行っている。現在、日本全国に約850 クラブ、約1 万3 千人が在席する。4H とは、農業の改良と生活の改善に役立つ腕(Hands)を磨き、科学的に物を考えることのできる頭(Head)の訓練をし、誠実で友情に富む心(Heart)を培い、楽しく暮らし、元気で働くための健康(Health)を増進するという、同クラブの4 つの信条の頭文字を総称したもの。

 

Q:立ち上げ当初は、相当苦労されたと思いますが?

日本向けに品種改良されたといっても、まだ国内での栽培実績が少ないため、病気や害虫の対策など、デリケートな扱いが必要でした。葉物野菜のノウハウはあってもはじめての品種に、「栽培方法の正解がわからない」という状況でした。そこで、さいたま市からの委託でトキタ種苗が指導にあたり本格的な栽培がはじまりました。

 

Q:それほど苦労をしてまでチャレンジするのは、生産者さんにとってメリットはどこにあるのでしょうか?

さいたま市は、1 軒あたりの耕地面積が小さく、大規模農業によってコスト低減を図るということが、困難です。また「京野菜」「鎌倉野菜」のように地域イメージでブランディングする事もむずかしい、従来野菜では良いものを作っても価格に反映されない。そこで自分達が価格を決め、高収益を期待できる品種に挑戦したいという気持ちがあったと思います。さいたま市の農業は市街地や東京に近く、お客様の声や市場ニーズが捉えやすい、種苗会社、卸売会社が地元にあるという強みもあります。

もちろんリスクはありますが、特色あるヨーロッパ野菜にチャレンジする事は、これらの問題に対する解答の一つであると思います。

 

 

Q:根本的問題解決の一つの答えだということですね。研究会の生産者さんは、従来野菜とヨーロッパ野菜をどのくらいの比率で作られていますか?

研究会への加入期間や、生産者さんの考え方によって異なりますが、ヨーロッパ野菜のみという方もいらっしゃいます。

 

Q:販売ルートについてお伺いします。従来野菜のルートと異なると伺いましたが?

従来のJA → 市場 → 卸 → 小売りを介したルートではなく、生産者が共同出荷し、業務用卸から直接レストランへ供給する方法をとっています。業務用の卸さんも研究会メンバーですので、誰がつくっているのかをちゃんと伝えられることが出来ます。中間マージンの削減というよりそのことを大事にしています。

 

Q:なるほど信用と安心の提供、それにブランド化ですね。生産者が直接販売する方法はとらなかったのですね

生産をしながら、受注管理、料金回収、梱包・発送まで行うのは、大変な負担です。それを苦にやめてしまう生産者が多いと聞きます。メインの販売先が飲食店なのですから、専用の卸会社に入ってもらえる方が有利です。レストラン側も他の食材と一緒にヨーロッパ野菜を発注することができますから効率がよいわけです。

Q:出荷や生産過程で発生する膨大な事務作業を、芝浦工業大学の協力で解決したと聞きましたが?

大宮に大学のキャンパスがある関係で、以前から地元の「ものづくり企業」などと、交流がありました。3年前に大学側から「工業系大学として、農業の支援がしたい」というお話があり、お互いに、どんなニーズがあるのか、何ができるのか、話し合いをしました。その結果、これまで生産者が膨大な手間をかけて手作業で行ってきた、出荷情報や栽培情報の管理を、アプリやソフトウェアを使って安く簡単に解決できることがわかりました。

以来、「工業大学だからできる農業支援」に関わっていただいています。

Q:メインの買い手である、レストランについてお聞きします。

市内のレストランは、今どのような状況にあるのでしょうか?

さいたま市にはイタリアン、フレンチのレストランが200軒以上あり、ワイン、チーズ、パスタの一人あたりの消費量が全国トップクラスです。また都内や海外の一流店で修行したシェフも多くいるのでレベルも高いと思います。しかし地元の人でも「記念日」などのお祝いでは、地元レストランを使わず、東京に行ってしまう。名産品、特選素材がないのも理由だと思いますが、レストラン側も悔しい思いをしていました。「どうすればもっと地元レストランを使ってもらえるか」。そこで輸入品や代用野菜にたよらず、地元産の新鮮なヨーロッパ野菜がつかえれば、料理の質も上がり、地産地消として特色を出す事もできると考えたようです。

 

Q:レストラン側でもブレイクスルーを狙っていたと。いままでも地産地消をうたっている店をよく見ますが、居酒屋の緑提灯とか?

自分で農地を持っている飲食店は別ですが、地産地消とうたいながらも、実際には使っている地元産品の種類や時期が限られていたり、頻繁に仕入れる事が難しい飲食店が多いようです。

 

Q:さいたま市の飲食店の市場規模はどのくらいでしょうか?

さいたま市内だけでも、飲食の年間売上は、約1,000億あります。原価率を考えると300億くらいが材料費ですから、野菜だけでなく他の食材も含まれますが、かなりの規模だといえるのではないでしょうか?

 

Q:有力な市場というわけですね。その中で研究会がレストランに卸しているヨーロッパ野菜の売上は、どのくらいでしょうか?

昨年が3,000万円、今年は4,500~5,000万円の見込みです。

 

Q:ヨーロッパ野菜を広く知ってもらうために、どのようなPRをされていますか?

レストランや、卸の営業担当者向けにヨーロッパ野菜の勉強会を開催しています。洋食だけでなく、和食や中華の組合でも、調理方法の講習会を行うこともあります。さいたまスーパーアリーナで開かれる、関東食糧主催の食材展示会「NEW FOOD FAIR」には3年連続で出展しています。

一般向けには調味料メーカーのキューピーとのコラボレーション企画レシピコンテストで新しい食べ方の提案なども行っています。


Q:フェンネルという農事組合法人を設立されましたが。

経営の強化を考えて作りました。任意団体では得られない信用を得て、大手流通と契約する際にも、法人であれば独自に契約することが出来ます。なにより、「我々はこれからもヨーロッパ野菜を作りつづけますという意思表示でもあります。

Q:決意というか、覚悟というか気持ちが伝わってきますね。

最後に今後の事業拡大について教えてください。

メインターゲットは、やはりレストラン業界。市内だけでなく東京での拡大も考えています。また中食といわれる駅やデパートの地下惣菜売場などや、通販サイトへの提供も開始しました。通販の場合は野菜の調理法などの情報を合わせて提案できるので今後有望なターゲットと考えています。一般の消費者、とくに男性にはまだ馴染みの少ない食材ですが、今後アピールを行って身近な食材と感じてもらえるようにしていきたいです。「ブランドの浸透」、「生産面積拡大や人材育成」、流通システムのレベルアップ、物流・加工品の開発、観光業者とのタイアップを行いながら、2020年には売上1億を目しています。

 

Q:本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

 

 

【インタビューを終えて】

いま研究会のつくる野菜は、レストランの圧倒的な支持を得て、フレンチ、イタリアンだけにとどまらず、中華、居酒屋などのメニューにも採用されています。生産者は当初の4名から11名に、出荷高では3年で30倍に伸びているそうです。

野菜がおいしいのはもちろんですが、そのおもしろさと、食材として提供出来るようになるまでのストーリー性が受けているようです。メディアの取材も年間30回以上と聞きますから凄いですね!

生産者、飲食店、種苗会社、物流、行政、大学が、個人の利益に走ることなく、それぞれが信頼関係の上に仕事をして、関係者すべての業績が向上しているそうです。

また、さいたまヨーロッパ野菜研究会のサポートレストランでもあり、ワイン販売等も行っておられるノースコーポレーションでは、レストランシェフが出向き、ヨーロッパ野菜を使った学校給食を提供する「シェフ給食」をCSR活動の一環として続けられています。最近、大型マンションの建設ばかりが目につくさいたま市ですが、さいたまヨーロッパ野菜研究会のような活動が、本当の意味で地域を豊にするのではないかと感じました。

現在、全国30箇所で同様にイタリア野菜の栽培がはじまり、トキタ種苗を通じ産地リレーに向け、全国で連携を開始したそうです。さいたま市はそのトップランナーとなっています。今後も良い見本となるために研究会の方にはリードしてもらいたいですね。

伊勢丹浦和店で、一般用に販売されていますので、お近くの方は是非お試し下さい。福田さんのお話しでは、ヨーロッパ野菜は、苦みがあるものが多く、山菜のように調理すれば、おいしい和食にもなるようです。

私も、今週末は家族サービスを兼ねて市内のレストランを訪ねてみようと思います。

さいたまヨーロッパ野菜研究会  http://saiyoroken.jimdo.com/

フェイスブック  https://www.facebook.com/Saitamaeuropavege

*写真提供、ヨーロッパ野菜研究会